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7 長男くんの個性 起立性低血圧症 1

平成24年4月。わが家の長男君が、晴れて地元の中学校へと入学しました。
小学校の時とは違う、初めての中学校生活に何かと戸惑いながらも、長男君は勉強に・部活動にと様々なことに積極的に取り組み、楽しく充実した毎日を送っていました。
・・・そんな長男君に少々異変が訪れたのが、2学期の終わりに近い11月頃のことです。朝登校する時間になると、決まってお腹に激痛が走りトイレへと駆け込むよ うになりました。
1度お腹が痛くなり始めると、痛みはなかなか治まらず長時間トイレにこもりっきり。やっと出てきたと思ったら登校時間はとっくに過ぎてしまい、「通学中や学校でまたお腹が痛くなったら怖い」という不安から、その日は学校へと行けずに欠席する。
そういう毎日が幾度も続き、私と長男君は「朝早く起きてトイレに入る習慣をつければ改善するかな」「食事に気をつければ便通が良くなるかな」と、あの手この手で対策を練ってみましたが、状況は一向に改善せず。
話が少し飛びますが・・・
実は、私自身も幼い頃から脂汗をかくような腹痛に襲われることが年中あり、学校への登校中はもちろんのこと、社会人になってからは通勤中の電車内で急にお腹が痛くなり、それこそ一駅ごとにトイレへと駆け込み、お腹の激痛や吐き気と格闘し、軽く1時間はトイレから出られないという苦しい体験をした1人です。
当然その日、学校や会社へは遅刻することになりますし、この症状を経験したことがない人にとっては理解ができない行動らしく、「それって単なる仮病なんじゃないの?」と言われ、切ない思いをしたことが何度もありました。
私の場合、当時の腹痛の大きな要因としては、日常の様々なことに感じている「極度の緊張」が、精神的にストレスを増幅させ症状を起こしていたようで、当時は的確な診断名こそはありませんでしたが、現代の医学用語で言うと「過敏性腸症候群」という症例に該当するそうです。
この過敏性腸症候群には私もかれこれ30年ほど悩まされてきましたが、ありがたいことに、この数十年間で様々な人生経験を積み、自分自身が緊張せずにリラックスして過ごせる方法を身につけたことで日常のストレスをあまり抱えることがなくなり、数年ほど前からはまったく症状が出なくなり、見事に完治いたしました。
私の話はさておき、仮に長男君が私と同じ症状であった場合、彼はまだたった13歳なので、おそらく日常頻繁に起こる緊張や不安・ストレスなどを自身の力で解消できるようになるにはまだまだ幼く、症状を改善するには今後多大な時間がかかってしまうような気がします。
毎日腹痛で苦しんでいる長男君の様子を見ているうち、この子もまた私と同じ症状でこの先ずっと悩み続けるのはかわいそうだと考えた私は、長男君を連れ、近所のかかりつけの先生にその旨をご相談しに行ったのですが・・・
診察時、先生はうちの子を診るなり、「ひょっとするとこの子の場合、他に何か原因があるかもしれないよ。1度大きな病院で診てもらっておいで」とおっしゃいました。その流れで大学病院に紹介状を書いてくださり、急きょ検査を受けに行くことになったのです。
・・・数日後、長男君を連れ、大学病院へ受診しに行きました。
検査前の問診の際、長男君の顔を見た病院の先生はなぜか「目まいが頻繁に起こる ことはない?」とか、「立ってて気分が悪くなることはない?」とか、腹痛とは関係ないようなことをたくさん聞いてきました。
私は不思議に思い、「先生、この子は過敏性腸症候群という症状ではないのでしょうか?」と尋ねてみると・・・先生は、「この子の場合、お腹が痛くなる原因はまったく違うところだね」とおっしゃいました。
その後あらゆる方法で検査をした結果・・・
実は長男君は、「起立性低血圧症」という体質を持っていることが分かりました。
どうやらお腹が頻繁に痛くなるのも、このことが大きな原因となっているそうです。
検査で撮っていただいた腹部のレントゲン写真を見てビックリ!
腸の隅から隅までパンパンに便が詰まっていて、カチカチに固まっている状態でした。これじゃぁ、お腹が頻繁に痛いのも無理はないですよねぇ・・・汗
では、長男君が診断された「起立性低血圧症」とはどの様な症状なのか、ここで先生から教えていただいた説明と、私自身が調べた内容を少し記載してみたいと思います。
< 起立性低血圧症(起立性調節障害)とは >
人は起立すると、重力によって血液が下半身に貯留し、その結果血圧が低下します。健康な人では、これを防ぐために自律神経系の一つである交感神経が興奮し、下半身の血管を収縮させ血圧を維持します。また、副交感神経活動が低下し心臓の拍動が増加し心拍出量を上げ、血圧を維持するように働きます。
ところが、起立性調節障害(起立性低血圧症)では、この代償機構が破綻して血圧は低下し、脳血流や全身への血行が維持されなくなります。そのため、立ちくらみやふらつきが起こってきます。血液による酸素 や栄養の供給が悪いのですぐに疲れたり、また疲労からの回復が遅れます。
さらに脳血流が悪いために思考力は低下し集中力もなくなってきます。心臓は代償性頻脈を起こすため、起立状態や少しの運動で息切れ、動悸を起こすようになりとても身体が辛く感じます。身体を横にすると全身への血流が回復するため、このような症状が軽減し身体が楽になります。起立性調節障害の子どもは、ごろごろと横になることが多いのはこのためです。
ところで自律神経の活動性には24時間周期の日内リズム(概日リズム)があります。たとえば、人は早朝になると交感神経活動が増えて身体を活性化し、夜には副交感神経活動が高まり身体をクーリングさせ、休養させます。
ところが、起立性調節障害では、午前中に交感神経が活性化せず、5~6時間以上も後ろにずれ込んできます。その結果、朝に身体が休止しているような状態になります。その一方で、深夜になっても交感神経の活動性が下がってこないので、夜は身体が元気になり寝つきが悪くなります。
一見、生活リズムが乱れているように見えるのですが、その根本原因は自律神経系の日内リズムが後方にずれこんでいることにあります。起立性調節障害の子ども達に対応する際、このような特徴は十分理解してあげてください。
< 起立性調節障害は多い病気ですか? >
頻度の高い疾患です。好発年齢は10~16歳、有病率は小学生の約5%、中学生の約10%とされ男:女 = 1:1.5 ~ 2 です。
厚生科学研究の全国調査によると、一般小児科外来を受診した10~15歳3316名のうち、281名が心身症、神経症等と診断され、その中で起立性調節障害は199名と、約7割を占め最も多くみられました。
起立性低血圧症の主な症状としては、
★朝起きられない ★立ちくらみ・失神 ★ふらつきやめまい ★緊張性頭痛
★疲れやすく、とてもだるい ★動悸・息切れ ★視野のかすみ・眼前暗黒感
★消化器血行不良による食欲不振や吐き気・下痢、便秘や強い腹痛 ★耳鳴り
上記のように、低血圧症の症状は色々あります。時に不登校に繋がってしまう場合もありますので、周囲の理解が必要です。
< 起立性調節障害(起立性低血圧症)は治るのでしょうか? >
どのような状態を「治る」と考えるのか、それによって答えも変わります。ここでは、身体症状があっても薬を服用せずに、日常生活に支障が少なくなった状態とします。重症度によって予後はかわります。日常生活にほとんど支障がでていない軽症では、秋になって涼しくなると軽快します。
しかし、温かくなる春先に再発することが多いようです。学校を時々遅刻したり、たまに欠席する程に日常生活に支障がでてきた中等症では、回復に時間がかかるようになります。日常生活に支障のある中等症では、1年後の回復率は約50%、2~3年後は70~80%です。
重症例では、朝が起きられないために、ほとんど欠席しますので成績も悪くなります。この場合、普通高校の進学は難しくなります。もし入学できたとしても、朝の授業にたびたび欠席して、留年になることも珍しくありません。
しかし、体と心の両面から治療的対応がうまくいき、さらに体力に見合った高校(午後から授業の単位制高校など)に進学すれば、高校2年生ごろにはかなり回復し学業や運動にも支障がなくなります。
重症では、社会復帰に少なくとも2~3年かかると考えた方が良いでしょう。しかし、約9割の子どもが高校を卒業し、大学進学率も平均並です。
< 保護者と学校関係者へのお願い >
「起立性調節障害は身体の病気であり、起立や座位で脳血流が下がり、思考力・判断力が低下する」ということを、保護者や学校の先生などの周囲の人がまず理解してあがることが大切です。
午前中に症状が悪 くなり学校を遅刻しがちになるが、午後~夜に体調が回復して、テレビやゲームで楽しそうに遊んでいる姿を見ると「どこから見ても病気とは思えない」というのが、保護者の本音です。
しかし、最先端の検査を行うと明らかな異常が見つかるのです。決して仮病や怠けではないと考えましょう。
保護者、学校の先生の理解が得られることで、子どもは安心し症状軽減につながります。症状が悪くなるのは、1日の中では午前中、そして1年の変化でみると、血管が拡張しやすい春先から夏の時期です。寒くなってくる秋~冬は、手足が冷えやすい、という問題はありますが、全般的に体調が回復することも知っておいて下さい。
「この病気は心の持ち方次第でよくなる」「だれでも朝は辛いけど、みんながんばっているんだ」と言って、朝から家に迎えに行く教師がおられます。かえって子どもが拒否的になってしまい、引きこもりを起こすことがあります。
起立性調節障害症状が改善する時間帯に登校する、長時間の起立や座位は脳血流を低下させるので、保健室や別室で楽な体位で学習できるような配慮が必要です。担当医に診断書を提出してもらいましょう。
起立性調節障害の子どもによって詳細は異なりますが、「学校生活すべてにおいて静止状態での起立を3~4分以上続けないこと」「暑気を避ける」。夏に体育の授業を見学させる時には、重症度が中等症以上では、涼しい室内に座って待機させるなどの記載をしてもらいましょう。
体調不良でも昼間は身体を横にしないようにします。また、散歩程度の運動は積極的に進めます。筋肉のポンプ作用で下半身への血液貯留を防ぐことができます。歩いても良いが、じっと立つのはダメ、ということです。
(大阪医科大学 小児科准教授 田中 英高 監修HP「ODの病態と治療」より抜粋)
以上が、起立性低血圧症の簡単な説明です。では、上記の説明をもとに、わが家の長男君が現在置かれている状況を少し考えてみたいと思います。
(平成25年4月 記)
パート2に続く