
あなたの個性はママの宝物
22 フリースクールという選択肢 長男くんの場合 3

長男君が不登校になってから約1年後。
彼にとっての居場所づくり&社会復帰に向けたフリースクール通いが始まりました。
中学1年の2学期頃から本格的な体調不良に陥ってしまった長男君は、この頃学校への登校はおろか、軽い外出すらまもとにできない状態になっていたため、まずは週1日だけ曜日を決め、その日体調が良ければスクールへ顔を出すという本当にささやかな一歩から進めていくことにしました。
しかし、通い始めた最初の頃はやはり、日常の体調不良に加え本人の気持ちの落ち込みが激しかったため、たった週1回のスクールへもなかなか出向くことができず、「この選択肢で間違えていなかっただろうか?」と不安になることがありました。
おっと・・・いかんいかん、今ここで親の私が焦ってもしょうがない。
彼にとっての新しい生活は、まだスタートしたばかりなんだから。
この子の歩むスピードに合わせて、私自身もゆっくり・焦らず見守っていかないと・・・
その後、1か月~2か月と、あっという間に時が過ぎていきました。
とてもゆっくりなペースではありましたが、長男君自身も体調が良い日には少しずつスクールへと顔を出せるようになっていき、スクールスタッフの方達の手厚いサポートもあり、通い始めて半年経つころには、週3日程度も足を運べるようになっていました。
スクール通いは彼にとって、過去からの心身リハビリとして本当に大きな変化になったと思います。
フリースクールってね、本当に色々な事情を抱えた子達が集まって来る場所なんです。
うちの子のように体調不良がきっかけで不登校を余儀なくされてしまった子や、非情ないじめにあって学校やクラスメイト達に恐怖心を抱いてしまった子、そして自分の個性(存在)を集団社会で受け入れてもらえず、学校という場所に生きる価値を見いだせなくなってしまった子など、理由は様々ですが心の中には大きな傷を抱えている状態で、どの子に関しても世間の一般常識に捉われすぎない、より柔軟なサポートが必要な子達ばかりです。
またスクールに通っている子達は、「学校に行ってない=世間で言う普通に生きるってことができてない」という気持ちを持っている子も多く、「自分は世間のはみ出し者」と捉えてしまう傾向が強いため、彼らが自己否定に陥らないよう心のケアをしていくことがとても重要です。
もちろん、それは長男君も例外ではありませんでした。
やっとの思いでスクールへ通えるようになったものの、スクールからの帰宅中に地元中学校の生徒達の下校姿を見かけると、「自分の姿を見られないよう、とっさに隠れてしまう自分に劣等感があってすごく嫌だ」と、周囲の人達との接触をひどく恐れている時期がありました。
不登校等の経験をしたことがない人達に、長男君のような子達の気持ちを理解しろというのは到底無理な話だと思います。こればっかりは実際に経験してみないとその大変さは分からないですものね。
それ故に、同じ体験をしたことのない彼のクラスメイトや世間の1部の人達は、悩める人の心を突き刺すようなひと言を何の悪気もなく言葉にします。
道端で長男君にバッタリ会ったりすると、「お前学校来ないのに、なんで普通に私服着て外歩いてんだよ、ありえね~」とか、「呑気にサボってんじゃね~ぞ」って感じでね。(^^;)
その様な言葉を投げかけてくる子達も、決して悪意を持って発言しているのではないと思うのですが、言われた本人はこれらの言葉を非常に重く受け取り、さらなる自己否定につなげてしまう可能性が高くなってしまうんですよね。
色んな事にさんざん悩んで苦しんで、前向きな気持ちで学校とは別な道を選択したらしたで、また違った苦労が出てきてしまうんだなぁって・・・
「あなた達がそんな理由で悩み・苦しむ必要なんてないのに・・・」と思うような子達が、日々胸を締め付けられる思いで肩身狭く過ごしている。
この様な切ない現状って、世の中の教育全般に関わる風潮や、人間社会における理不尽な仕組みが作り上げてしまった産物なのではないかなと、子ども達の落ち込む姿を見るたびに感じています。
さて、そのような様々な出来事があってから数年後。自分の置かれた境遇になんとか適応しながらコツコツと努力を重ね、長男君は中学3年生の卒業を迎えました。
不登校になってから約2年半。
体調はある程度回復していましたが、彼が持つ重度疾患の特性上、残念ながら中学生期間中に生活を日常サイクルに戻すことはできませんでした。
また起立性低血圧症は、起きていても脳にまで血流がうまく行き届かないため、集中力がずっと低下した状態でこの数年を過ごしていたので、勉強に関しても身を入れて取り組むことができませんでした。
上記の理由から、長男君と何度も話し合った結果、普通高校への受験は諦めフリースクールからご紹介いただいた技能連携認定校(通学制の通信高校)へと進学することになりました。
フリースクール上がりの技能連携高校は彼の体調に合わせて午後から通学することもでき、通学制とは言っても基本は通信校なので、各期末のレポート課題をしっかり提出し単位をとればきちんと高校を卒業することができます。
同じ学年の子達とはまったく異なる進路を歩むことになった長男君ですが、この頃の彼は以前のような葛藤や迷いはほとんどなく、自分自身の人生を随分と肯定的に受け入れられるようになっていました。
そして現在。長男君はこの春、高校2年生になりました。
起立性低血圧症の症状は見違えるほど改善し、今は普通の人とほとんど変わらない日常生活を送ることができるようになってきています。ただし、昼夜逆転した生活があまりにも長かったので、そのあたりは本人もまだ少しマイペースで今後改善の余地あり、といった感じですが。苦笑
私達親子にとっての、4年という月日。
本当に・本当に長かったです。
長男君は今もまだ、世間の様々なことに対し心身ともにリハビリの最中です。彼の人生の中にポッカリと空いてしまった数年間の大きな穴は、簡単に埋めることは難しいということを本人も理解しています。
それでも最近では、今までできなかった色々なことにチャレンジしてみよう!という、とても明るい気持ちが前へと出てきています。
そうそう、リハビリと言えばね、先日「社会復帰の意味をこめて近所のコンビニでアルバイトを始めたい」と長男君が言い出し、早速そのコンビニへ面接に行ってきたんです。
自分自身の言葉で、店長さんに「自分は不登校児だったため、様々なブランクがある」ということをちゃんと説明したうえでバイトをやらせてほしいとお願いしたところ、店長さんは快く長男君を受け入れてくださり、正式にバイトとして入る前に数日間の研修を受けに行くことになりました。
ところが・・・、研修を2回受け、あとは最後の1回をクリアしたらバイトとして働くことができるという日の前日、長男君がふと私の所に来て何か言いたげにしていることに気づきました。
私が「どした? 何か話でもあるの?」と彼に聞いてみると、話を切り出そうとした途端、言葉が詰まってしまってしゃべり出せず、めったに泣く姿を見せない長男君が顔をクシャクシャにして泣き出したんです。
しばらく泣き続けた後、気持ちが少し落ち着いたようなので詳しく話を聞いてみると、「突然責任の多い仕事をやってしまったため心身が追いついていかず、自分自身がそこに適応できなくて苦しい」というのです。
「社会復帰のことを気にすればするほど、夜中になると色々考えてしまって動悸が激しくなり、息がすごく苦しくなって、今ここで死んじゃうんじゃないかってパニックになる。夜が怖くて眠れない」と。
そして、療養中人と接することができない期間が長かったため、外で人とコミュニケーションを取ろうと思ってもなかなか上手くいかず、自分の言動が相手にどう思われているのかが怖くて気持ちを素直に伝えることができないと。
長男君の話を聞いたとき、私はここ数年の不登校によるブランクが、彼自身にどれだけ大きな影響を及ぼしていたのかという事実を改めて実感することになりました。
そう、体調が良くなったからと言って、決して今までの長い空白が簡単に埋まるわけではないんですよね。学校に通えなかった数年間、長男君はこの時期に学ぶべきたくさんの大切なことを、自分自身の身をもって習得することができなかったわけで・・・
勉強ひとつにしても、集団社会における様々な適応力を養うことにしても、実践を通して身につけていくことを彼はほとんどと言っていいほど吸収していない。これが、今後の人生を歩んでいく上でどんなに重要なことなのかを私達親子は気づかされたのでした。
私達が生きている人間社会って、ホント厳しいですね・・・(^_^;)
結局その時は、長男君の心身状況を考慮し、コンビニの店長さんに事情をお話してバイトのお話はまたの機会にさせていただくことにしました。
たった2日間の研修だけであっけなく終わってしまった長男君でしたが、コンビニの店長さんがとってもいい方で、「息子さん、まじめで責任感があるとてもいい子です。色々大変だと思いますが、体調が回復したらまたぜひバイトに来てくださいね」と、本当に優しい言葉をかけてくだいさいました。
店長さんの思いやりあるひと言が、私達親子の胸にとても温かく響きました。
今回のバイトは、リハビリとしてはちょっぴり急で内容もハードだったかな。「次は、もう少し気持ちに余裕をもってできるバイトを探してみようね」と2人で話したのでした。
新しいことを何か始めたいと思った時、外界での経験数が圧倒的に少ない長男君にとっては、周囲の人達よりも、数倍の努力と勇気をもって挑まなければならないことが今後も多々出てくると思います。
でもね、そもそも人って、新たな環境に一歩踏み出す時は誰でも怖いし、勇気が必要なものですよね。長男君はその出だしが、他の人よりもチョッピリ遅れてしまっただけ。
経験が少ないからと言って、失敗を恐れる必要なんてない。
人間ってみんな、物事を最初から上手くできる人なんてほとんどいないんですから。
長いブランクがあるからと言って極端に周囲との壁を作らず、「自分の存在そのもの」に大きな自信を持てるようになっていってほしいなと思います。
ある意味彼は、周囲とは違った貴重な経験(病気や不登校)をしたことで、それを今後の人生を歩んでいく上での強いバネにしていくことができるのですから。
お話の最後に・・・
先日、長男君が17歳の誕生日を迎えました。
私達夫婦は今回、誕生日の記念に、彼が長年やりたがっていた「スカイダイビング体験」をプレゼントさせてもらうことにしました。
誕生日の前日に家族全員でダイビングの体験場所へと向かい、長男君が空から大きく飛び立つ姿をみんなで見届けてきました。
こんなに素敵な体験を、自分自身の勇気と行動力をもって実行できた長男君、ホントすごいよ!
手を大きく広げてのびのびと空を飛んでる姿、すごくカッコよかったよ!
ちなみに・・・
私は高所恐怖症なので、飛行機すら怖くて乗ることができません・・・(笑)
これからも、自分のペースを上手に保ちながら、どんどん色んなことにチャレンジしていってほしいなと思います。
ママはこれからもず~っと、君がゆっくりと成長していく姿を温かく見守り続けていくからね。
(平成28年7月17日 記)