
あなたの個性はママの宝物
10 次男くんの個性 アスペルガー症候群 2

平成24年9月頃、様々な精神的ストレスによって体調を崩してしまった次男君。大学病院まで行き検査を受けた結果、彼に告げられた診断名は「自閉症」というものでした。
・・・病院に行った当日、まずは次男君が大きく体調を崩しているということから、小児科全般を担当する医師のもとで、体の診察と問診を受けました。
次男君の体調不調は「身体的なものが原因というよりは、精神的な問題が体へと大きく関与している」とのことでした。先生は次男君にいくつもの質問を繰り返し、次男君の体調がここまで悪化してしまった原因をじっくりと探ってくださいました。
そして次男君との問診を終えた後、「体に出ている数々の症状を改善するためには、本人の心のケアを最優先し、今後しばらくはストレスの原因となっている場所から少し距離を置く必要がありそうですね」とおっしゃいました。
今回の場合、次男君の心の状態が少しずつ安定していけば、次第に体の症状も治まってくるでしょう。ということで、とりあえず気持ちが落ち込む原因となっている学校へは、少しの間お休みをいただくことになりました。
さらに先生は、このようにもおっしゃっていました。
この子の話を聞いていると、主に、人間関係に関することで心を痛めている場面が多いようですね。人とのコミュニケーションが少し苦手なようで、お友達と交流する場において、その不得意なところが大きな偏りとして出てしまうのかもしれません。
日常生活において彼の得意な分野に関してはまったく問題はないと思いますが、不得意な分野を出来るだけいい方向で伸ばしてあげられるよう、1度適正テストを行って調べてみましょうか。
と。
そして今後は、同じ院内にある「小児心療内科」へと診察を移動し、しばらくの間、小児科の先生にご紹介いただいたカウンセラーの方のお世話になることとなりました。
日を改めて、1度次男君のことを様々な方向で検査した後でカウンセリングに入りたいという指示があったため、後日次男君と一緒に検査を受けに行くことになりました。
・・・検査当日。
次男君を院内の指定された場所へと連れて行くと、検査を行う専門の方が出迎えてくれました。
その時、どの様な検査を行うか等の説明をしていただいたのですが、次男君が受けるものは、どうやら「知能検査」だったようです。
私は専門の方からその話を聞いて、「なんでこの年になって知能検査をうける必要があるんだろう?」と少々疑問を感じましたが、以前小児科の診察を受けた際、先生が次男君の得意・不得意分野をテストで調べるとおっしゃっていたことを思い出し、「ああ、これがそのテストなのか」と納得しました。
検査が終了した数日後、その結果に基づいたカウンセリングを行っていくということで小児心療内科へと案内されました。
カウンセラーの先生に初めてお会いし、次男君の状況を説明させていただいた後、私は、数日前に次男君が受けた知能検査の結果を知りたかったので先生に聞いてみました。
すると先生が・・・
知能テストに関しては特別な問題はなかったのですが・・・
お母さん、自閉症ってご存知ですか?
とひと言。
・・・は? ・・・自閉症?
私はとっさに「ええ、自閉症という名前を聞いたことはありますけど・・・?」と先生に言葉を返すと、先生は突然「おたくのお子さんは、自閉症の一種だと思います」と言い放ったのです。
私はそれを聞いて、一瞬「キョトン・・・?」としてしまいました。
事前にもう少し説明があってからその様なことを聞けば、多少の状況は呑み込むことができたかもしれませんが、先生から何の説明もなくいきなり「自閉症」だと言われても、それをどの様に受け止めていいのか分からないですよね(汗)
知能テストの結果にまったく問題はないのに、じゃあいったい次男君のどこが自閉症に該当するのか、私はその理由をはっきりと聞かずにはいられませんでした。
すると先生は、こう話を続けたのでした。
この子の場合、知的障害を伴わない高機能自閉症の分類に該当しているものと思われます。ひと言で「自閉症」とは言っても、そのパターンは100人いれば100様にあり、その人によって障害の出かたはまったく異なります。
おたくのお子さんの場合は、特に「社会や組織の中のルール」を学ぶことや、「人の顔を見て相手の気持ちを察する」というコミュニケーション的な部分を円滑に進めていくことが、一般の人よりも少々難しい傾向にあると思います。
・・・では、カウンセリングの先生がおっしゃった「高機能自閉症」とは、いったいどの様なものなのでしょうか?
下記に、自閉症や発達障害の子ども達を専門に診察なさっている、よこはま発達クリニックの内山登紀夫さんという医師が執筆された高機能自閉症についての詳細を引用し、説明をしていきたいと思います。
ちなみにここからの引用文ですが、自閉症に関する様々な現状をより多くの人々に知っていただきたいとの思いから掲載させていただきました。
とっても長いので、ご興味のある方はぜひ1度目を通していただき、ご興味のない方に関してはスルーしていただいて構いません (*^^*)
◇◆高機能自閉症(アスペルガー症候群)とは
★はじめに
この文章の目的は、アスペルガー症候群はどういう障害かを一般の人にできるだけ正しく理解してもらうことにあります。ですからアスペルガー症候群の子どもや大人の人の特徴についてできるだけ具体的に詳しく書きました。
最新の医学的・心理学的情報や援助の方法については簡単にしか書かれていません。援助の方法はとても大切ですが、原則のみを書きました。具体的な方法は個々の子どもによって異なるからです。
正確な診断や援助プランの作成は専門家の役割です。残念ながら日本にはアスペルガー症候群の専門家は少ないのですが、まず理解することが第一のステップと考えました。参考にしていただければ幸いです。
アスペルガー症候群は自閉症の一つのタイプです。アスペルガー症候群の子どもや大人は、①他の人との社会的関係をもつこと、②コミュニケーションをすること、③想像力と創造性、以上の3分野に障害を持つことで診断されます。典型的な自閉症も同じように、3分野の障害(以下「3つ組の障害」と呼びます)を持っています。
これからアスペルガー症候群の子どもの特徴について説明していきます。子どもと書いてあっても、ほとんどの事項は思春期や成人のアスペルガー症候群の人にも当てはまります。
上記①の、社会的関係をもつことというのは、他の人と一緒にいるときに、どのように振る舞うべきか、ということです。②のコミュニケーションとは自分の思っていることをどう相手に伝えるか、そして相手の言いたいことをどう理解するかということです。最後の③想像力と創造性の問題は、ふり遊びや見立て遊び、こだわりと関係します。
◇◆アスペルガー症候群の定義は一つではありません
大きくわけて、アスペルガー症候群の定義は二つあります。
一つはウィングらが提唱し、イギリスを中心にヨーロッパで主に使われているアスペルガー症候群の概念、もう一つは、DSM-IVやICD-10などの国際的な診断基準で定義されているアスペルガー症候群(これはICD-10の呼び方でDSM-IVではアスペルガー性障害と呼ばれます)の概念です。
本書はウィングらの考え方を基本にして書かれています。日本やアメリカではDSM-IVの考え方を採用する専門家もいます。ICD-10やDSM-IVのアスペルガー症候群は、認知・言語発達の遅れがないこと、コミュニケーションの障害がないこと、そして社会性の障害とこだわりがあることで定義されます。
ウィングの考えではアスペルガー症候群も3つ組の障害があることで定義されるので、当然コミュニケーションの障害も併せ持つことになります。ですから同じ子どもが国際的な診断基準を適用すると自閉症であり、ウィングの基準で考えるとアスペルガー症候群となることも少なくないのです。
あるクリニックでは、アスペルガー症候群と診断された子どもが別の病院では自閉症と診断されることはありうることです。
◇◆アスペルガー症候群と類似あるいは同じ意味の障害
高機能自閉症、高機能広汎性発達障害などは、アスペルガー症候群とほとんど同じ意味で使われることがあります。高機能自閉症とは知的な発達が正常の自閉症のことです。
高機能自閉症とアスペルガー症候群が同じなのか異なるかについては研究者によって意見が異なりますが、ウィングは、少なくとも臨床的には区別する必要はないとしています。
本書でも、アスペルガー症候群と高機能自閉症を区別しないで使います。
本書でアスペルガー症候群について書かれていることのほとんどが、高機能自閉症についても当てはまると思ってください。広汎性発達障害という呼び方はICD-10やDSM-IVの呼び方で、広義の自閉症と同じ意味です。
アスペルガー症候群も高機能自閉症も、広汎性発達障害に含まれます。なお、DSM-IVの自閉性障害とICD-10の自閉症とはほとんど同じ意味で使われます。他者への関心が極端に乏しく、こだわりが強い、いわゆる典型的な自閉症のことを指して「カナー型の自閉症」ということがあります。
「非定型自閉症」「特定不能の広汎性発達障害」といった場合は自閉症の症状が典型的には現れていないが、自閉症の症状のいくつかが明らかに存在する場合を指します。
「自閉症スペクトラム」はウィングが提唱している概念で、3つ組の障害が発達期に現れる子どもたちを総称しています。広汎性発達障害とほぼ同じ意味ですが、より広い範囲の概念です。
◇◆自閉症とはどこが違ってどこが同じなのでしょうか
自閉症とアスペルガー症候群はひとつながりのもので、どこかで厳然と二つに分かれるものではありません。幼児期には典型的な自閉症の特徴を持つ子どもが、思春期になるとアスペルガー症候群の特徴が目立ってくる場合もあります。
強いて区別して言えば、アスペルガー症候群の子どもや大人は、一見して障害があるようには見えないことが多いのです。話もできるし、勉強なども人並み以上にできることがあります。人前で独り言を言ったり常同運動をしたりすることは稀です。一見自閉症にみえない自閉症といっても良いでしょう。
教育や援助の方法で大切なことは、3つ組の障害をもっているかどうかです。
アスペルガー症候群と自閉症、そしてそのどちらの特徴も持っている場合も合わせて3つ組の障害があれば、自閉症スペクトラムと総称することをウィングは提唱しています。アスペルガー症候群でも自閉症でも3つ組の障害があれば、教育や援助の方法は共通しているのです。
◇◆アスペルガー症候群なら誰でもある特徴
アスペルガー症候群にも自閉症にも、「3つ組の障害」がみられます。以下、「3つ組」について説明していきましょう。
独特の人付き合い(社会性の問題)
アスペルガー症候群の人の人付き合いの特徴を一言で述べれば、人の中で浮いてしまうことが多いということです。幼児期には一人遊びが中心です。他の子どもと遊ぶことは少なく、遊んでも年長の子にリードされたり、年少の子と同レベルで遊ぶことが多いのです。
つまり、同年齢の子どもと対等の相互的な遊びをすることがとても難しいのです。
【 主な特徴】
・正直すぎる
・同年齢の子どもと波長があわない
・積極的すぎることもある
コミュニケーションの問題
アスペルガー症候群の人の話し方は、ちょっと変わっています。話すことができないわけではありません。 おしゃべりなアスペルガー症候群の子どもも沢山います。でも話し方が少し変わっています。一言でいえば会話のやり取りが長続きしないのです。
【主な特徴 】
・話し方が回りくどい、曖昧が苦手、細かいところにこだわる
・大人びた難しい言葉、場にそぐわないほどの丁寧語を使う
・一方的でわかりにくい話し方
・言外の意味を汲み取ることが苦手・言葉の間違った使い方
・思考を言葉に出す
・わかりにくい話し方,訥々とした話し方,駄洒落を好む
・しゃべるほどには理解していない
・ジェスチャーや表情、距離のとり方など、言葉以外のコミュニケーションの問題
・コミュニケーションというキャッチボールが苦手
想像力の障害
想像力の障害は、こだわりやふり遊びの少なさ、融通の利かなさという形で現れます。
早い場合には1歳前から、モビールや風にゆれる木の葉をベッドから何時間も眺めて笑う、たまたま母親が池に石を投げ込んでできた波紋をみて、何度も石を投げるように要求して波紋を見続けるといった行動が現れます。
アスペルガー症候群の子どもは柔軟性に乏しいために、予想外の事態を嫌い、複数の子ども相手のごっこ遊びを避けることがあります。アスペルガー症候群の子どもが示す想像力の障害は、次に述べるようなコレクションや反復的行動、融通のきかなさに繋がっていきます。
つまり想像的な遊びが乏しく、他の子どもとの相互的な遊びを楽しむのが難しいとしたら、一人遊びが増え、同じことの繰り返しが楽しみになっていくわけです。
【主な特徴 】
・コレクションへのこだわり
・パターン的行動、生真面目すぎて融通が利かない
・ものまね、テレビ・ビデオへの強い興味
・常同運動
◇◆「3つ組」以外のアスペルガー症候群に良くみられる特徴
以下の領域の特徴はアスペルガー症候群に必発ではありませんが、アスペルガー症候群の人が示すことが多い特徴です。
不器用
アスペルガー症候群の子どもの動作は、ぎこちない印象を与えます。三輪車のペダルをうまくこげなかったり、小学校に入っても自転車の補助輪がとれない、ボール遊びが苦手、お箸が上手に使えない、など運動が苦手なことが多いのです。
小学校では体育が苦手なことが多く、バランスをとることが苦手で平均台をうまくわたれなかったり、ドッジボールなどのボール遊びに参加できなかったりします。ただし、これはすべての子どもに該当するわけではなく、中には運動を得意とする子もいます。
手先が不器用で工作が下手だったり、「みみずのはったような」字を書くこともあります。このような不器用さは知的な能力とは平行せず、成績優秀な中学生でもお箸で食べると食べこぼししたりします。
もっとも特定のことに関してはとても器用なこともあります。お箸はうまく使えないのに、テレビゲームのコントローラーはとても素早く正確に操作したりできる子どももいます。運動は全く苦手なのにピアノは上手に弾いたり、読めないような字を書くのに絵はとても上手に描けるなどです。
このような不器用さは、模倣能力の乏しさや、模倣するときの注目点が一般の子どもと異なることなどが関係しているようです。
音や光、味などへの過敏さ
アスペルガー症候群の子どもは、感覚刺激に対して敏感なことがあります。
敏感さは聴覚、視覚、味覚、嗅覚、温痛覚などのいずれの感覚の敏感さもありえます。一人の子どもがすべての領域に敏感さをもっているわけではありませんが、アスペルガー症候群の子どもは(大人も)、感覚の敏感さを持っている可能性について周囲の人が考慮しておく必要があります。
過敏なことが多いのですが、逆に鈍感なこともあります。アスペルガー症候群の人の感覚的な問題は敏感さと鈍感さが共存することです。痛みや熱さに対して鈍感な場合は、怪我や火傷に気づかないことがあるので注意が必要です。
◆ 音への敏感さ
音への敏感さが、アスペルガー症候群の最初の兆候のこともあります。
ちょっとした物音で不安がり泣いてしまうとか、工事現場の騒音を嫌がって外出を拒否する、幼稚園の運動会のピストルの音でかんしゃくをおこしてしまうなどです。人ごみや、混んだレストランなどざわざわした騒音は苦手なことが多いようです。
音への敏感さが特定の音を好むという形で現れることもあります。電車のガタンガタンという音を熱中して聞き続けたり、放映のないチャンネルのザーというノイズを聞くことを好んだりすることもあります。エンジンの音で車種を、モーターの音で電車の種類を区別できる子どももいます。
音感に敏感で、ほんのわずかな音程のずれでもわかる子どももいますが、こういう子どもにとっては学校の音楽の時間に調子はずれの合唱に参加したりすることはとても苦痛に感じることでしょう。
◆ 嗅覚の敏感さ
嗅覚が敏感な場合には、香水や整髪料の臭いを嫌うことが多いようです。他の人の体臭や口臭に敏感で、それを我慢できずに社会参加の妨げになったり、悪気はないのですが、はっきりと相手に指摘するために傷つけてしまうことがあります。
学校や会社などのトイレを使えないとか、塩素消毒の臭いが苦痛で体育のプール指導を嫌がるなどの行動もみられます。自分から訴えない子どもも多いため、嗅覚過敏が関係した行動は見逃されがちです。
◆ 視覚的敏感さ
敏感さが視覚に現れると、特定のマークやロゴにこだわったり、教えもしないのに文字やアルファベットなどを幼児期に覚えてしまうことが多いようです。揺れる木の葉を見続ける子どもは、興味のレパートリーが狭いとも言えますし、視覚的な敏感さがあるといっても良いでしょう。
強い日差しが眩しくて、サングラスをかけて対応していることもあります。視覚の敏感さが文章を読むときに現れると、学習や仕事に支障をきたすこともあります。
あるアスペルガー症候群の女性は、何かに注意を向けると内容より表面が気になってしまうと訴えます。例えば文章を読むと漢字の複雑な形に注意がむいて文字のカーブの形などにうっとりと見入ってしまい、内容を理解するまでに時間がかかります。
◆ 味覚の敏感さ
味覚の敏感さは偏食につながります。極端に敏感な場合は、特定の銘柄の特定な物しか食べないことがあります。A社のレトルトカレーは食べるのに、B社のは食べないといったこともあります。学校で給食の時間に残さず食べるように指導されるのが苦痛で、登校できなくなることも少なくありません。
偏食というと「わがまま」とみなされやすいのですが、アスペルガー症候群の子どもにとっては、われわれがおいしいと感じる味がとてつもない味に感じていることがあり、偏食の矯正を給食の時間の目標にしないほうが良いでしょう。
偏食の一部はいわゆる「食べず嫌い」で、食べ物の「見た目」への敏感さが原因のこともあります。このような場合は、調理の方法で見た目を変えることで食べることができるかもしれません。
◆ 痛みに対する反応
痛みに対する反応が過剰で、注射などに異様なほどの恐怖心を覚える子どもがいます。大学生のアスペルガー症候群の大学生で、注射の痛みで涙を流す人もいました。反面、痛みに対してまったく無頓着といった場合もあります。
◆ 触覚的な障害
ツルツルした表面が滑らかなものを触ったり、ぬいぐるみなどの感触が好きでいつも持ち歩いて撫でていることがあります。シャツのタグのあたるのが嫌でタグを取ってしまったり、きついズボンを嫌がってゆったりしたズボンをはきたがったりすることがあります。
他人に触られることや、抱きしめられることを嫌がることもあります。これは触覚への過敏性の、最初の表現かもしれません。
学習の問題
アスペルガー症候群の子どもの成績はさまざまです。かなり優秀な成績のこともあれば、全体的に学習が苦手なこともあります。多くの子どもは普通学級で学んでいますが、小学校も高学年になると普通学級での学業継続が難しくなり、特殊学級に転籍することもあります。
社会や理科などが好きで、図鑑などから詳細な知識を得ていることも珍しくありません。漢和辞典やことわざ辞典などで沢山の熟語やことわざを知っている子どももいます。一部の知的に高いアスペルガー症候群の人は、大学にも進学します。理系にいくことも文系にいくこともあります。しかし、大学で自主的に研究計画や実験計画をたてることは難しい人が多いようです。
◆ 字を書く問題
不器用さの項でも説明しましたが、字を書くのが苦手な子どもが多いようです。まず字の書き方が乱雑で、「みみずのはったような」字をかくことがあります。
全体的な成績は悪くないのに、中学生になっても「わ」と「ね」、「シ」と「ツ」などの区別で混乱したり、簡単な漢字を覚えられないことがあります。「偏」と「旁」の位置が逆転したり、いわゆる鏡文字を書く子もいます。文末の「は」と「わ」の混同なども時にみられます。
◆ 算数の問題
独特の計算の方法をとることがあります。アスペルガーの原著にも、47-15を、47に3を足して50にし、15を引いてから3を引く方法をとる男児の例があげられています。また、機械的な計算はできても、文章題になると難しいことがあります。
筆算は得意でも暗算は苦手な場合や、計算のみだと暗算が得意でも、問題を聞いて解くときにはとても苦労する場合もあります。驚くほど正確に計算できる場合もあり、何年も先までカレンダーの曜日を計算できたりする子どもがいることはよく話題になります。
◆ その他の心理学的問題 ~心を読むこと
日常、大人はもちろん子どもでも相手の気持ちを読みながら暮らしています。相手が自分を騙そうとしているとか、本当は喜んでいないのに喜んだふりをしている、そういう相手の意図を読むことで日常の生活が成り立っています。
このように、相手の気持ちを読む能力は通常では4~5歳くらいから芽生え始めるといわれています。アスペルガー症候群の子どもは相手の言ったことをそのまま単刀直入に受け止めてしまいがちです。そのため騙されやすかったり、利用されたりしやすいのです。
◆ 注意の問題
アスペルガー症候群の子どもでは、注意の集中や配分に問題があることがあります。配分に問題があると、あることをしている時に声をかけても気がつかなかったりします。ゲームに集中しているときに声をかけても振り向かないことは一般の子どもでもよくありますが、アスペルガー症候群の子どもではそれが極端な形で色々な場で生じがちです。
アスペルガー症候群の子どもは注意の配分が苦手で、あることに集中すると別のことには気がつかない傾向があります。あることをしていて別のことに注意を移行することも苦手なことがあります。前にやっていたことを、いつまでも頭の中で考えていて新しいことがお留守になってしまうのです。
◆ 計画をたてること
自分で物事を計画して、複数のことがらを連続して実行していくことが苦手なことが多いのです。ある程度周囲がプランを立ててあげないと、一人で複数のことを連続して実行していくことは難しいようです。
よく子どもの自主性を尊重する教育と言って、何もこちらで準備しなくて子どもの自由にさせるやり方が一部で推奨されていますが、このやり方はアスペルガー症候群の子どもには合いません。
◇◆アスペルガー症候群の原因は、親の育て方ではありません
アスペルガー症候群の原因は、まだ解明されたわけではありません。しかし、親の育て方・虐待・愛情不足などが原因ではありません。
アスペルガー症候群の子どもは、幼児期から漢字を覚えていたり、計算が得意だったりするために、親が教育熱心すぎて愛情に欠けると周囲から思われていることがあります。また正しく診断されていないことが多いために、「わがままでしつけのなっていない子ども」とみられていることもあります。
アスペルガー症候群の行動特徴の多くは、認知発達の偏りで説明がつきます。認知発達の偏りをもたらすのは何らかの脳機能の微妙な障害です。アスペルガー症候群の原因はおそらく一つではないでしょう。
遺伝的要因や、妊娠中や出産時、出生後ごく早期の何らかの原因のために脳の特定の部分に障害が生じたのだろうと考えられています。
◇◆診断をめぐる問題
アスペルガー症候群は、いつも正しく診断されているわけではありません。一つの理由は、精神科医や小児科医、臨床心理学の専門家の間でもアスペルガー症候群の概念は、日本ではまだあまり浸透していないことがあります。
また日本の医療現場では、健康保険制度上の問題もあって、初診時の診察時間が短いことも一因です。アスペルガー症候群の子どもは、短時間の診察室での面接や診察では障害特性が明らかに現れないことが多いのです。そのため「親の気にしすぎ」などとされ、「正常」と診断されることもあります。
また学習上の問題や不注意や多動性などの方が、微妙な社会性やコミュニケーションの問題などより目に付きやすいために、「学習障害(LD)」や「注意欠陥/多動性障害(AD/HD)」などと診断されていることも少なくありません。「こだわり」が目立つために、強迫性障害として治療されていることもあります。
成人期になって初めて診断が下されることも少なくありません。こういった人たちも、多くが専門医を受診しているのですが、「分裂型人格障害」、「単純型分裂病」、「ひきこもり」などの診断がつけられていることもあるようです。
これまでアスペルガー症候群の子どもについて述べてきましたが、その多くが成人のアスペルガー症候群の人にもあてはまります。アスペルガー症候群は児童期に明らかになります。その特性は年齢によって微妙に変化はしていきますが。本質的には成人期まで継続してみられます。
アスペルガー症候群の人が、成人期になって初めて診断される場合も珍しくありません。成人期の診断は診察時に3つ組の存在が認められ、かつ幼児期から3つ組の障害が明らかであったかどうかを確認することで診断がつきます。したがって正確に診断するためには、発達期のことを良く知っている家族の情報が必要になります。
★ あとがき
この小冊子やウェブ版を作ることになったきっかけは、東京都自閉症協会からアスペルガー症候群について広く知ってもらうために、一般の人が読みやすいような小冊子を作って欲しいと依頼されたことに始まります。大変光栄なお話だと思いましたが、自分のような者には荷が重いというのも本音でした。
もともとアスペルガー症候群に関わるようになったのは、日本自閉症協会の推薦を得て、田中徳兵衛冠名ロータリー財団奨学金をいただきウィング先生のもとで勉強する機会を得たことがきっかけです。それで思い切ってウィング先生に監修をお願いしましたら快諾を得ることができました。
本書は先ず、内山が書いた草稿を鈴木正子さんが英訳して下さり、その原稿を内山と鈴木さんの共通の友人である英国のジョンマーク・ミッシェルさん(NHS小児科医:発達障害専門)とピア・ケリッジさん(ルートン市教育局社会的コミュニケーション障害部門責任者)に校正を依頼しました。
校正原稿をウィング先生に読んでいただき、そのアドバイスに基づきかなりの加筆訂正を行いました。その原稿を再度日本語に訳し改変したものを、もう一度英訳しウィング先生の了解をいただきました。
執筆の過程でアスペルガー部会の方々、専門家の先輩・友人からも貴重なご意見や励ましをいただきました。東京法規出版の鬼木さんには細かい注文に根気強く対応していただきました。多くの皆さんに協力を得て発刊の運びになり嬉しさもひとしおです。
この小冊子とウェブ版がアスペルガー症候群の子どもや大人、そしてご家族の人にとって少しでもお役にたてることを願っています。
2002年7月 内山 登紀夫
以上が、アスペルガー症候群と呼ばれる障害の詳細を記したものです。
えっと、説明文でページがいっぱいになってしまったので(汗) 、続きを作りたいと思います。
(平成25年5月 記)
パート3に続く